・RSウイルス:外来診療においては1歳未満の乳児とシナジス適応となる児に限り保険診療で検査が可能です。RSは2歳になるまでにほとんどの子どもが感染します。喘鳴(ゼーゼーする)がある乳幼児にこの検査は必要ですが咳だけで経皮酸素濃度(SpO2)も下がっていない場合はほとんど必要ないでしょう。このウイルスに効く特効薬はありませんが喘鳴で息苦しい時は喘息薬等を内服させる場合もあります。なお1〜2歳児でも呼吸困難症状がある場合は当院負担(持ち出し)で検査を行うこともあります。
※先日、市外のクリニックでドクターの勧めでRSウイルスやhMPV(ヒトメタニューモウイルス)の検査を行ったが保険診療代¥600(丸福該当の場合)とは別に検査代を請求されたという患者さんがおりました。これは保険診療上は違反になります。このような状況に遭遇した際は所属の保険組合にご相談ください。
・マイコプラズマ:ほとんどの方は幾度か知らない間に罹って自然に治ってます(不顕性ふけんせい感染)。この感染症は5人感染するとそのうちの4人は咳がややひどい風邪症状で済み、残りの1名は肺炎等の呼吸器症状が強くなると言われております。この後者の肺炎等の呼吸器症状が強い方に対しては検査は有用です。結果が15分程度で判る迅速検査の精度はあまり良くなく、正確な診断を求める方には数日かかりますがLAMP法をお勧めしております。当院も含めて多くの医療機関では咳がひどかったり長引く場合はマイコプラズマにも効果があるマクロライド系抗菌薬を他の効果と相乗効果を求めて服用させることが多いのでそれほど積極的には検査しておりません。もちろん、希望があれば検査致します。
※あるメーカーのマイコプラズマ迅速検査キットは10人検査すると1人はマイコプラズマに感染していないにも関わらず陽性になる(医学用語では偽陽性)と説明書に記載されております。もし、1日100人診察しているクリニックで1日20人に対してこの検査を行うと2人が偽陽性となります。すなわち検査をすればするだけ偽のマイコプラズマ患者さんを作り出し流行を演出することができます。
陽性一致率 陰性一致率
A社 57.6% 91.6%
T社 81.1% 100% <- 現在、当院ではこちらを採用
(遺伝子増幅検査:PCRとの一致率)
また、1回の血液検査でマイコプラズマ感染の有無がわかる検査キットもありますがこちらは数年前に罹ったものも陽性とでてくることが多くあまり(ほとんど?!)役に立たないようです。
・溶連菌:迅速検査の中で一番有用な検査と言えます。発熱を伴った咽頭痛やリンパ節の腫れがあり溶連菌感染が確認された時はリウマチ熱や糸球体腎炎等の合併症予防のため抗菌薬を服用しておいた方が無難です(ただし糸球体腎炎の発症予防効果は証明されていないようです)。なお健康な子どもたちの咽を検査し培養検査を行うと10人中2〜3人は溶連菌が検出された(健康保菌者)と報告されております。細菌が存在している場合は感染(infection)と定着(colonization)を区別する必要があります。当院ではたとえ話として同じアパートにヤーさんが住んでいる状況を想像してもらっております。暴れて周りに迷惑をかけている時(感染:infection)は押さえ込む(抗菌薬の適応)必要がありますが、静かに暮らしている時(定着:colonization)によけいなことをしない方がよいでしょう。
※当院採用の社の検査キット精度
陽性一致率 陰性一致率
94.4% 100%
(培養との一致率)
・インフルエンザ:タミフル等の抗インフルエンザ薬を用いなくても自然治癒します。A型に関しては薬を用いるとかなり楽になりますが合併症を減らす効果はpandemicH1N1以外では明らかになっておりません。症状がひどい方のみが検査し、抗インフルエンザ薬を使用すれば十分でしょう。ただ、学校や幼稚園・保育園が感染予防のためにかなり神経質になっております。当院では検査手数料(免疫学的検査判断料:\1,440分)が徴収できるので検査希望の方を拒みませんが、流行期の発熱はインフルエンザを想定し対処すればそれで十分だと個人的には考えております。
※当院採用の社の検査キット精度
陽性一致率 陰性一致率
A型 97.8% 97.7%
B型 95.9% 98.6%
(ウイルス分離培養との一致率)
・アデノウイルス:印象では病初期に検査しても偽陰性を呈することが多いと感じております。特効薬はなく自然に治るまで待つしかありません。発熱が長引く場合は鑑別診断に役立ちます。この検査が普及する以前は発熱が長引いて原因不明で入院させられるケースが多かったのですがこの検査のおかげでおおよそ5日間程度で解熱することがわかり入院しなくても済むようになりました。
・hMPV(ヒトメタニューモウイルス):今まではレントゲン写真で肺炎が確認された6歳未満のケースに保険診療で検査が可能でしたが平成30年4月からはレントゲン撮影の縛りが解除されました。保険診療が適応される前にこの検査を無料で数十例ほど行ったことがありますが特効薬もないので「感冒症状だけの方」にわざわざ検査しても患者さんにとってはほとんどメリットも無いと考えられます。発熱が続き(4〜5日以上)、咳がひどい方には検査致します。
・ノロウイルス:この検査は私が知る範囲では病初期に検査精度が低くうまく反応しません(ノロだとしても検査結果が陰性となる)。吐き出した数日後の便で検査の信用性が上がります。感染性胃腸炎患者さんの50〜60%はノロウイルスが原因だと報告されており、吐き下しの際はノロウイルスを想定して対処すれば十分でしょう。。
・ロタウイルス:乳幼児では悪化が見込まれるので検査してもよいでしょう。元気で脱水所見もない年長児に検査しても無意味です。乳幼児の吐き下しはロタウイルスを第一に想定して対処すれば十分でしょう。また、ロタの予防接種を受けておくと症状が緩和されますので検討してください。
いずれの検査も流行状況を知る意味ではとても重要です。ただ個々に対してはその検査意義を十分に考慮して行うべきでしょう。また、医師の診断能力を高めるために迅速検査を用いることがあります。医療保険や患者さん側に負担をかけるのでこのような目的では患者さんにインフォームド・コンセントを得て、医療機関側の費用負担で行うべきだと個人的には考えております。
さらに流行阻止するために迅速検査をもっともっとするべきとの意見もありますが、3日超えの発熱があれば無熱期間2日間が過ぎるまではお休みする。咳がひどくて周りに迷惑をかける時も休む、吐き下しの時も吐き気が収まり便処理をしっかりとできるまで休めば大方大丈夫なはずです。
(検査を求めて混雑した救急外来を受診することはわざわざインフルエンザをもらいに行くようなものかも知れません)
最後にある医学雑誌に書いた一文をアップしておきます。
☆プライマリ・ケアにおけるポイント☆
「子どもが発熱するとすぐに医療機関に駆け込む保護者が多い。早過ぎる受診は疾患を示唆する所見も乏しく、直ちに迅速診断キットを用いて抗原を検索しても偽陰性を呈することが多い。発熱が数日長引いたとしても全身状態が良い子どもたちに診断キットでウイルスを確定してもメリットは少なく苦痛を与えるだけである。また、保護者を満足させるために抗菌剤を投薬することも副作用や耐性菌を引き起こすリスクが生じる。今日では予防接種の普及により重症感染症のリスクは減少し、即座に検査や投薬すべき患者は少なくなった。保護者には、発熱しても元気が良ければ、慌てずに一呼吸おいて受診するように指導することが望ましい。」
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